私が「スポーツ」をより深く理解しようとして、身体の仕組みや、トレーニングの仕方、過去における失敗例や成功例、そして技術のそのものの書籍などを探してみて、「技術」以外に関する書籍はそれなりに探すことができましたが、「技術」に関するものが、これは分かりやすい、または素晴らしい、という本などなかなか見当たりませんでした。その当時は、簡単には見つからないなと思っていましたが、技術を明確な言葉で表現することは不可能であることに気づいていませんでした。文字や言葉で伝えることには、限界があると思います。勿論、自分の書いた本を売るために、技術の本質とかけ離れた内容の「技術書」はたくさんあります。例えば、背骨の前傾角度を変えないでスイングしてください、フィニッシュでは左足に体重を全て乗せてください、などですが、これを実践すれば、安定したショットを打ちつづけることは出来ないでしょう。
ボールを打つという「動き」は、すごく単純な面と、複雑な面があります。単純な面の例として、ゴルフを始めたころは、殆ど何も考えないで、ボールを打つことだけに集中して練習を繰り返します。ボールが遠くに飛ぶのが楽しい、ただ夢中になって練習を繰り返します。多くの人が経験あると思いますが、始めたころのほうがボールが良く飛んだし、そんなに曲がらなかった、時々耳にする言葉です。
ボールを打つという「動き」の複雑な面は、自分のゴルフの上達を望むために、本や動画など色んな情報を参考にして、スイングに「改良」を加えた結果、あまりうまくいかない、または以前よりショットの調子が悪い、そのようなゴルファーは多いと思います。そして、そのような人から「スイングのどこがおかしいのか?」と相談された場合、的確に悪いところを見つけ出すことは容易ではありません。ただ、その人の悩みを少しでも軽くしようとアドバイスをするとき、スイングを大改造するようなアドバイスは、まったく有効ではありません。スイングを少し変えるだけでも、かなりのが時間がかかるからです。
できる限り軽微なスイング改良で、結果であるショットが良くなるアドバイスが求められます。スイングは頭のてっぺんから、足先まで繋がって動きますので、その見極めは簡単ではありません。例えば右打ちの人が、フォロースルーで左ひじが曲がって、動画など撮ると見っともない、そして方向も安定しないので、何とかしたいという相談に対して、左ひじをできる限り伸ばす練習をするしかないのでは、とのアドバイスは全く効果は期待できません。その人は何とかボールを真っすぐに飛ばすために、クラブフェースが「返らない」ように左ひじを「抜く」動作を、何度もボールを打って身に着けた一つの「技術」なのです。左ひじが曲がるという現象は、いろんな要素が複雑に絡み合って現れた「動き」であることの理解が必要です。
オンプレーンに沿ってクラブを上げて、オンプレーンに沿ってクラブを下ろしてください、という話は少し前によく聞かれましたが、トッププレーヤーのスイングを見ると、テークバックとダウンスイングが同じところを通ってない選手を数多く見ます。私はスイングで大事にしていることは「躍動感」です。躍動感のあるスイングをどうやって身に着けてもらうか、言葉で説明することもあるし、トッププレーヤーの動画を参考にすることもあるし、ゴルフ以外のスポーツを引き合いに出して説明することもあります。技術を伝えることは単純ではないので、逆に単純な「教え」ほど間違った方向に進む可能性が高いことに注意するしたほうが良いでしょう。